最近、家計や老後資金のご相談をお受けする中で、50代後半の早期退職に関する話題が出ることが多くなりました。
すでに十分な資金が貯まって「FIRE(経済的自立と早期リタイア)」をするという方は、そもそも私のもとへご相談に来られることが少ないため、どちらかといえば「今の段階で仕事をやめても本当に大丈夫なのだろうか」という切実なお悩みを抱えた方が多い印象です。
現在、深刻な人手不足が続いている企業も多く、同僚が辞めてしまったにもかかわらず人員の補充がなかったり、若手が入ってこなかったり、あるいは入ってきたとしても育てる余裕がなかったりすることがあります。
その結果、自分ばかりに負担が偏ってしまっているにもかかわらず、会社が一向に対処してくれないというケースや、負担が増える一方で収入がまったく上がらないというケースも見られます。
体力的にもしんどくなってくる年代であるため、「体調を崩してまでこの会社にしがみつく必要はないのではないか」と思う一方で、「そうはいっても、実際に辞めてしまってお金は大丈夫なのだろうか」という不安を抱えている方は非常に多くいらっしゃいます。
会社を退職したい理由は、このような労働環境に関するものから、給与に対する不満、この先のキャリアへの不安、ワークライフバランスの崩れ、体調面の不安など、人それぞれです。
しかし、昔に比べると転職へのハードルが下がっていることや、そもそも会社側が一定の年齢以上の社員を対象に早期退職者を募っていることも、早期退職を検討する人が増えている理由になっているようです。
ニュースなどでも人員削減を検討している企業の話題をよく見かけますが、2024年度においても上場企業における早期・希望退職の募集人数は8,000人以上であったとのことです。
50代後半で早期退職をして、その後はもう一切働かなくても大丈夫という方はそれほど多くはありません。
そのため、多くの方は退職後のお金のことが心配になると思います。
それを踏まえて、今回は早期退職を検討するときに必ず押さえておいてほしい6つのポイントを詳しく見ていきたいと思います。
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1. 生活にかかる費用を計算しておく
まず1つ目は、生活にかかる費用を事前にしっかりと計算しておくことです。
生きていくためには当然お金がかかりますから、何らかの方法でその資金を工面していかなければなりません。
それにもかかわらず、生活にどのくらいの金額が必要なのかを確認できていない状態で仕事をやめてしまうのは非常に危険です。
「仕事をやめれば、支出を大幅に減らせるはずだ」と考える方も多いですが、これはほとんどの場合が幻想にすぎません。
そのため、まずは現状でかかっている支出の金額を丁寧に把握することから始めましょう。
住居費や水道光熱費、通信費などの「固定費」はもちろんのこと、食費や日用品費、娯楽費などの「変動費」の把握も不可欠です。
さらに、日々の生活費以外にも、これまではボーナスなどでなんとなく賄えていた固定資産税や自動車関係の費用、旅行や帰省の費用、家電の買い替え費用といった「特別支出」についても、きちんと把握しておく必要があります。
1年間の支出を洗い出すとともに、今後2〜3年以内の短期的なスパンで必要になるまとまった費用についても整理しておくことが大切です。
人によっては、まだ住宅ローンがだいぶ長く残っているかもしれませんし、50代後半であれば子供の教育費が終わっていない可能性もあります。
子供が独立するまで、あるいは自分の年金受給が始まるまでに一体いくらの費用がかかるのかをリストアップすることから始めましょう。
これは早期退職をするかどうかにかかわらず、50代後半からの人生設計において非常に大切な行動となってきます。
2. 公的年金の見積もりをし直す
2つ目は、公的年金の見積もりをし直すということです。
原則として65歳から受給することになる国の年金額については、「ねんきん定期便」を使って確認することができます。
ただし、50歳以上の方に届くねんきん定期便に記載されている金額は、「現在の収入がそのまま60歳まで続いた場合」という見込み額が含まれています。厚生年金は「報酬比例の年金」とも言われており、現役時代の給料に連動して将来の年金額が変わる仕組みになっています。
例えば、55歳で退職し、その後は厚生年金に加入しない(働かない、または扶養に入るなど)場合、ねんきん定期便に記載されている金額から、本来加入するはずだった5年分の年金に相当する額が減額されることになります。
ざっくりとした計算ですが、現在の年収が500万円で、60歳まであと5年間あると仮定します。
この場合、「500万円 × 0.55% × 5年」という計算になり、将来受け取る年金額が年間で約13万7,500円減ることになります。
自分の場合において具体的にどのくらい減るのかを確認したいときは、ねんきん定期便のハガキに記載されているQRコードを読み取り、「公的年金シミュレーター」を使って試算することができます。
現在の年収が多い人ほど、早期退職による年金の減額幅は大きくなりますので、必ず事前に確かめておきましょう。
「年間で減る金額はそれほど多くないな」と感じるかもしれませんが、公的年金は生きている限り受け取ることができる「終身年金」です。
仮に受給が始まってから20年という長い期間で考えると、トータルで一体いくら減ることになるのかを計算しておくことも非常に大切です。
3. 退職後の社会保険をどうするか検討する
3つ目は、退職後の社会保険をどうするかあらかじめ検討しておくことです。
シームレスに(間を空けずに)次の会社に転職する前提で早期退職をするのであれば問題ありません。
しかし、そこまで明確に次の転職先を決めずに、一度会社を退職するという場合は、社会保険をどうするのかを真剣に考えなくてはなりません。
例えば、配偶者(妻など)がすでに社会保険に加入しており、その扶養要件を満たせるのであれば、自分が妻の扶養に入るという選択肢を検討できます。
ただし、会社を辞めた後に雇用保険の基本手当(いわゆる「失業手当」)を受給している間は、扶養に入れないケースが多いので注意が必要です。
その場合、これまでの会社の健康保険に「任意継続」として加入するという方法もあります。
任意継続を選択した場合、これまでは会社が半分負担(労使折半)してくれていた保険料も、すべて自分で支払うことになるため、保険料の負担額がこれまでの倍近くになることが多いです。あらかじめ、どのくらいの保険料を払わなくてはいけないのかを想定しておく必要があります。
そして、もう一つの選択肢は、お住まいの自治体で「国民健康保険」に加入することです。
国民健康保険(国保)の保険料は全額自己負担となります。自治体によって保険料の計算方法や金額が異なるほか、前年の所得をベースに計算されるため、退職直後は特に保険料が高額に感じられることが多いです。
どのような選択肢があり、どれを選択するのが自分にとって最も有利なのか、あらかじめ調べておきたいところです。
なお、任意継続や国民健康保険はあくまで「公的健康保険」のお話です。
年金に関しては、60歳未満の方であれば、厚生年金に入らない期間は自分で「国民年金」に加入して保険料を支払う必要がありますので、こちらも合わせて注意してください。
ずっと会社員として働いてこられた方は、これらの手続きをすべて会社が代行してくれていたため、意外と知らないことが多いかもしれません。
4. 扶養内の家族の保険も考えておく
4つ目は、これまで自分が扶養に入れていた家族の保険についても考えておくことです。
自分が会社員として健康保険や厚生年金に加入し、妻や子供を扶養に入れていた場合、会社を辞めて国民健康保険に切り替えることになると、これまで扶養していた家族の分の保険料も合わせて支払わなくてはならなくなります。
また、妻が60歳未満であれば、これまでは年金の「第3号被保険者」として保険料の負担がありませんでしたが、退職後は第3号の資格を失うため、妻自身も国民年金の保険料を支払う必要が出てきます。
これまで扶養内に収まるために「年収の壁」などを気にして就労調整をしていた配偶者がいる場合は、自分が退職することで制限を気にする必要がなくなるため、逆に働きやすくなる(収入を増やせる)というケースもあるかもしれません。
もし妻が社会保険に加入して働いているのであれば、子供を妻の健康保険の扶養に入れられる可能性もあります。
ただしその際、夫(自分)の収入がなくなったこと、あるいは少なくなったことを証明する書類の提出を求められるケースもあります。あらかじめどのような書類を用意すれば妻の扶養に入れることができるのか、妻の勤務先に確認しておけるとスムーズです。
5. 退職金の把握とそのお金の行き先の確認
5つ目は、退職金の額を正確に把握し、そのお金の行き先を確認することです。
今の会社に長く勤めている方であれば、退職金もそれなりの金額が積み上がっていることと思います。
とはいえ、退職金については「実際に退職する直前まであまり意識していなかった」という方が非常に多いため、ぜひこのタイミングで制度の内容、支給金額、そして受け取り方などをチェックしましょう。
受け取り方法が「退職一時金」のみなのか、あるいは「確定給付年金(DB)」なのか、「確定拠出年金(企業型DC)」なのか、会社によってそれら複数の制度が組み合わさっていることもあります。
退職一時金であれば会社を辞めたタイミングですぐに受け取ることができますが、確定給付年金や確定拠出年金は、原則として60歳以降にならないと受け取ることができません。受給可能な年齢になるまでの間、それらの資産をどのように管理・運用していくのかをよく考えておく必要があります。
また、退職一時金の場合、会社が早期退職の希望者を募っていると、通常の退職金に金額が「上乗せ(増額)」されて給付されるケースもあります。これにより、一度に非常に大きな金額を手にするケースがあります。
しかし、大金を手にしたことで急に気持ちが大きくなってしまい、「これだけの金額があれば、この先ずっと大丈夫だろう」と錯覚してしまうことがあります。その結果、想定以上のスピードでお金を取り崩していってしまい、後々困るということにもなりかねません。
退職後に金銭的な理由でもう働かない場合、その退職金は、この先30年以上の長い老後生活を支える貴重な資金にする必要があります。
くれぐれも「いつ、何のために使うお金なのか」を計画し、適切な口座や資産に割り振るようにしてください。
さらに、退職一時金を50代で受け取った場合、その後60歳になってから企業型DCやiDeCoの一時金を受け取る際、退職所得控除の「重複期間の支給」とみなされ、税金の計算に影響(増税など)が出る可能性もあります。
その受け取り時に、先に50代で受け取った退職金の「源泉徴収票」の提出が必要になりますので、もし一時金を受け取った場合は、その源泉徴収票をしっかりと保管し、紛失しないようにくれぐれも気をつけてください。
6. その後の働き方を考える
最後の6つ目は、退職したその後の働き方を考えておくことです。
別の会社へ転職するのではなく、一度早期退職をして改めてこれからの働き方を考える場合、これまでの経験や技術を活かして「フリーランス」として独立する、あるいは短い時間で「パートタイム」として働く、全く別の業種で改めて「再就職」をするなど、さまざまな選択肢があります。
早期退職を真剣に考えている時期というのは、日々の業務や人間関係などで心身ともに非常に疲れてしまっていることが多いため、「次の仕事のことなんて今は考えられない」と感じるかもしれません。
しかし、退職後に少しでも収入があるだけで、これまで貯めてきた資産の取り崩しのスピードを圧倒的にゆっくりにすることができます。
最近では、週20時間以上などの短い勤務時間であっても、社会保険(健康保険・厚生年金)に加入できる会社が非常に増えてきています。
働くペースを少し落としたとしても、社会保険に加入することができれば、将来の社会保障を一定水準確保することが可能です。
何より、仕事をやめて社会とのつながりが少なくなってしまうと、精神的にも健康的にも良くない影響が出てしまうケースが多々あります。
金銭面では特に働かなくても問題がないという状態であったとしても、60代前半くらいまでは、何らかの形で「稼ぐ力(社会と関わる力)」を残しておく方が、精神的にも安心だと言えます。
おわりに
早期退職を検討するくらいですから、現在は心身の健康に問題を抱えていたり、これからの働き方について大きな迷いや葛藤が生じていたりするのではないかと思います。
しかし、今日お話しした6つのポイントは、早期退職に限らず、通常の「定年退職」を迎えるときであっても、いずれは必ず向き合わなくてはならないことばかりです。
「少し早めに人生の整理をする」というつもりで、これらのポイントを一つずつ確認しながら、実際に退職するのか、それとも今の会社に残るのかを決めるための判断材料にしていただけたら幸いです。




