ー この記事を書いた人 ー
ファイナンシャルプランナー 塚越菜々子

塚越 菜々子 「FPナナコの部屋」主宰

保険や金融商品を売らないファイナンシャルプランナー。日本FP協会認定CFP®。「働く女性のお金の不安を解消したい」思いで、主に共働き女性に公的制度や家計・投資などお金の話を伝えています。

資産運用する

企業型確定拠出型年金を導入したのに従業員の利用率が悪い場合の対応方法とは?

従業員の福利厚生やライフプラン支援を目的に企業型確定拠出年金を導入。従業員の利用が進めば社会保険料削減にも一定の効果があるといわれ、導入コストも日々のコストもかけているのに、従業員にはそれが伝わっていない感じがする。マッチング・選択制の一向に利用率が上がっていかない。制度への質問が相次ぎ、かえって手間が増えた。そんなことはありませんか。

その理由と効果的に確定拠出年金の利用を進める方法をお伝えいたします。

制度説明・投資教育の機会がないか、あっても伝わっていない

年に一度の投資教育の機会は設けているもの、参加率が悪い。参加したあとの反応が悪い。案内資料を配っているのに読んでいない。マッチングの利用率が上がらない。説明しているはずの内容を何度も聞かれる。このようなことはないでしょうか。

実際に、個別にお金のご相談を受けていても「企業型DCがあるけれどよくわからない」「説明は受けたけど何を言っているかわからなった」「結局説明をちょっとだけ聞いたぐらいでは選べない」「分厚い資料だけ配られて決めろと言われて困った」というご相談が非常に多いです。

導入時に説明はあったものの、その後は全く相談も質問もできないとお困りのご相談もあります。育児休業中に制度が導入され、復帰後に説明をお願いしても聞けなので、かなり不信感を抱いているというご意見も聞きました。

コストをかけ従業員を思っての制度導入をしたにもかかわらず、かえって困惑されている・不信感を抱かれているとしたら、あまりにももったいないことです。

企業型DCの説明だけでは足りない現状

そもそも、日本では基本的なお金の知識は十分にいきわたっていません

誰もが当たり前のように入っている公的な保険ですら充分な理解ができていないのが現状ですから、福利厚生制度の上乗せや、退職金制度として確定拠出年金を導入したとしても、「何を言っているか意味が分からない」ということが発生しても何ら不思議はありません。

会社はもちろん導入時説明を行って、労使合意などを取り、手間をかけて導入したとしても、
「なんか集められて、退職金がどうとか説明されたけどよくわからない」
「とりあえず給料でそのままもらってる」
やはり多くの従業員側はこうなっています。企業型確定拠出年金の説明だけではそのメリットを理解することができないのです。

これでは、どちらにとっても有益ではなくなってしまいます。

人生100年時代、働き方も働く期間も多様化する時代に、企業型確定拠出年金制度は従業員のライフプランを支えることができる素晴らしい制度です。資産形成なしに豊かさを享受するのが難しい時代に、そのきっかけを後押しするものでもあります。そんな制度を手間をかけて導入したからこそ、もう一歩先の支援が求められています。

導入した制度をより効果的にするための投資教育は

加入者に提供すべき具体的な投資教育の内容は

確定拠出年金制度等の具体的な内容(公的年金を含む)
金融商品の仕組みと特徴
資産運用の基礎知識
確定拠出年金制度を含めた老後の生活設計

などとされています。

しかし、制度に関心が薄かったり、基本的な事項が習得できていない場合には説明の順番や内容に留意しなくてはいけません。一律に金融機関から提供される資料を渡すだけでは現状を変えるのは難しいのです。

会社側からすれば、そのくらいのことは知っておいてほしいと思うのが実情かもしれません。これくらい知っているだろうと思うかもしれません。ですが、残念ながら金融教育のいきわたらない日本では、年齢・社会人経験=金融の知識の多さとはなっていません。積極的に自ら知識を身に着け制度を利用できる従業員は限られており、それが確定拠出年金の利用やマッチング拠出利用の低さとなって表れているのです。

企業型確定拠出年金が有益であると気づき、行動を促すためには効率の良い伝え方・順番があります。

公的年金の仕組みと現状の理解

確定拠出年金は年金の3階建ての部分にあたります。そのため、1・2階の部分にあたる「公的年金」の理解が不可欠です。ここで伝えるべきは、教科書的な制度の話ではなく、自分とどうかかわっているかです。当たり前のように受け取る給与と密接に関係することを知り、会社で社会保険をかける意味を知ることは、会社にとっても従業員にとっても有益です。

投資はギャンブルではないという認識

日本では「投資」といえば、株式投資。近年はFXなどの為替、若い世代はビットコインなどの仮想通貨の取引をイメージしていることが多いです。それはつまり「特別な人がする」「ギャンブル」という認識です。国が「貯蓄から資産運用へ」と掲げ、確定拠出年金を通じて後押しする「投資」とはこういったものではなく、誰にも必要なものだと伝えていきましょう。

貯蓄から資産運用へ変えていく必要性

資産運用に対して無関心だったり苦手意識がある場合は「どうして貯金じゃいけないのか」という思いを強く抱いています。それを、とにかく投資だ、定期預金ではなくリスク資産を選べ、確定拠出年金の利用を!と声高に伝えても、なかなか行動に至りません。日本人が1000兆円にもおよぶタンス預金(預貯金)を持つことで自分たちに何が起きているのかを伝え、「貯金一辺倒ではなく資産運用」の必要性を実感してもらう必要があります。

資産運用に確定拠出年金制度が有利な理由

資産運用をしたいと思えれば、確定拠出年金がどれほど有利な制度なのかがわかります。
このような内容をご理解いただくと、次の掛金変更やマッチング拠出が利用できる時期が待ち遠しいと言われるケースが非常に多いです。ここまで伝われば、「利用しない手はない」「企業型ってありがたい」と、導入した制度に対しての感謝が生まれるはずです。

それぞれに合った投資商品の選び方

それぞれの従業員の状況によって商品の選び方は違います。なんとなく選んでいる方が多い現状ですが、従業員の資産形成に寄与しようと思う場合は、こちらもしっかりと伝えていく必要があります。どの程度のリスク・リターンを目指して資産形成していくか、老後の生活設計を含めた「考え方」を伝えることで、自主的に自己責任での利用が進み、結果として確定拠出年金制度が有益なものになるでしょう。

 

確定拠出年金の継続投資教育&実施報告が義務化へ

実際に確定拠出年金の導入時の説明はほぼ100%実施されていますが、継続して研修が行われているのは6割以下です。導入後の継続教育の実施率が低いことがかねてより指摘されていました。

これを受けて、2018年5月確定拠出年金法の改正により確定拠出年金の加入者への継続的な投資教育が努力義務化されました。

2018年5月1日から、企業型確定拠出年金(DC)を実施する事業主は、 加入者に対して、投資教育を継続的に行うことが努力義務化され、その実施状況を厚生労働省に報告することとなりました。

ー企業年金基金連合会

もとより、企業型DCの投資教育は事業主の責務とされています。
これまでは従業員が投資教育を受けられるように配慮してくださいという「配慮義務」がありました。これが今回の改正で「努力義務」へと変わり、実施状況の報告が必要になりました。

今後は、制度を導入したままにせず継続教育を行い、確定拠出年金の利用率を高めることで従業員の資産形成を後押しすることがより一層求められていきます。

企業型の確定拠出年金を効果的に利用してもらうために必要な知識はそれほど多くはありません。手間やコストをかけてせっかく導入した制度だからこそ、従業員のニーズや理解度に合わせて順を追って説明していくことで、従業員にとっても会社にとってもより有益な制度になるのではないでしょうか。

▶年代やレベルに合った投資教育の提供例はこちらのメニューをご覧ください。

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