子供は父親の扶養につけるのが当たり前だ、と思っていませんか?
父親が働き母親は主婦として家を守っているのが当たり前だった時代は、子どもの金銭的な扶養者は基本的に「父」一択だったかもしれません。
ですが、働き方も家族形態も多様化している現代で、父親につけるのが当たり前ではない場合もあります。
どう決めていけばいいのか、どうなるのか、いくつかのパターンをご紹介いたします。
扶養には二種類ある
扶養には大きくいって2パターンあります。税制上の扶養と健康保険上の扶養です。
税制上の扶養:父母どちらの扶養にするかは自由に選べる
税金の計算上も「扶養控除」という仕組みがあります。
ざっくりと説明すると、誰かを養うというのは大変だからその分税金を安くしてよね、ということです。
誰かを養っている人は「扶養控除」というルールを使って税金がかかる元を小さくすることができます。
税制上の扶養は、父親・母親どちらにつけるか親が自由に選ぶことができます。
例えば極端なことを言えば、長男は父親に・次男は母親の扶養に、などと選ぶこともできます。
そもそも16歳未満の子供にはこの「扶養控除」の適用がありません。
どちらの扶養につけたとしても、16歳未満の場合は税金が安くならないのです。
ただし、「住民税の非課税ライン」を判定するために、扶養に入れた子供の数をカウントしますので、夫婦どちらかの年収が100~150万円前後の場合は、お住まいの市区町村の住民税のルールを確認したうえで、あえて年収が少ない方の扶養にいれておいた方がいい場合もあります。
非課税ライン判定については、年末調整の記事で詳しく書いているのでご参考にどうぞ! 子供が生まれたら父親にあたる人が「保護者」代表で、父親が子供を「扶養する」のがあたりまえという雰囲気ですね。家長制のなごりなのかな? 「扶養」という制度は幅広い ...
【年末調整】共働きの場合は16歳未満の子供をどちらの扶養に書くか検討する
健康保険上の扶養:運営元が決定権を持つ
もう一つの扶養は「健康保険」です。
簡単に言うと、子どもの健康保険証をどちらから出すかということですね。
小さい子供の医療費はそもそも「小児医療証」などを使って無料のことが多いですが、本来は病院にかかる医療費のうち8割は健康保険組合が払っているわけですから、健康保険側ではあんまり加入してくれるな・・・と思っているかもしれません。
いずれにしても、健康保険の扶養のルール(被扶養者認定)は健康保険の運営元が決定権を持っています。
また、国民健康保険には扶養という概念がありませんので、「健康保険」の扶養に入れない場合は自分自身が国保に加入することになります。
収入がない子供でも国保に加入すると「均等割」といわれる保険料が発生してしまいます。
共働きの場合の健康保険の扶養パターン例
税制の扶養は自由に選べばよいわけですので比較的簡単ですが、健康保険は収入やそれぞれの親の加入状況によって違いが出てきます。いくつかのパターンをご紹介します。
①夫が健康保険・妻がパートで夫の扶養
この場合、妻は働いていてもそもそも夫の扶養になっているので、子どもは父の扶養になります。
②夫が健康保険・妻も健康保険(妻の方が収入が少ない)
この場合、どちらも健康保険なのですが、原則として収入が多い方の扶養に入れることになります。
※ただし、収入にムラがあって夫婦間の収入が頻繁に逆転する場合などは、健康保険の判断で変わることもあります。いちいち提出する書類が必要だったりするので、あまり移動しないことが多いです。
今はその収入差が1割程度の場合は希望したほうの扶養に入れられることが多いです(ただし、最終判断は健保によります)
また、産休・育児休業などによって一時的に収入が減る場合はすでに扶養にしている子は変更しなくてもよくなっています。生まれた子どもの扶養は生まれたタイミングで改めてどちらにつけるか判定されます。
③夫が国民健康保険・妻が健康保険(妻の方が収入が少ない)
自営業の夫がいる場合、夫が国民健康保険ということはよくあります(そもそも健康保険に入れない)
国民健康保険は扶養という概念がありませんので、子どもの分の保険料が発生します。子どもは基本的に収入がないはずですが、国民健康保険の「均等割」と呼ばれるお金がかかります。(減額されて大人より安くなるケースが多いです)
子どもを妻の健康保険の扶養に入れれば保険料はかかりません。
ただし、妻の方が収入が少ない場合、健康保険側から「収入が多い方の保険制度に入ってください」と言われる場合も多いです。
収入を証明するもの(課税証明や給料明細の控えなど)を出したりして判断を仰ぐことになるでしょう。
④夫が国民健康保険・妻が健康保険(妻の方が収入が多い)
上の例と同じく夫が自営業で妻が健康保険というケースでも、妻が収入が多いということもあります
ルール上は「収入が多い方」のため、妻の健康保険の扶養に入れることができることが多いです。
また、夫が自営業で所得が少ない場合、夫も妻の健康保険の扶養に入ることができれば夫の分の国民健康保険・国民年金の支払いはなくなります。
こちらも健康保険の基準に基づいて認定されます。
ただし、自営業の場合は売上や利益にムラが多いため、厳しい健康保険組合などの場合は夫の所得に対する提出物を多く求められたりすることもあるようです。
ただ、これはあくまで相談事例からですが「夫が妻の扶養に入る」ことをよく思わない(非常に感覚的ですが)組合もあります。妻が夫の扶養に入る場合は特に何も言わないのにもかかわらず、夫が妻の扶養に入ろうとするとやたらと事実確認を求められたりする事例と出会いました。
これは私の実感のみでデータがあるわけではありませんが、「夫を妻の扶養に入れる」などは渋られる傾向があるような気がします。日本的には夫が妻を養うのが普通。ということなのでしょうか。
実際に私のお客様でも、関西の某銀行の健康保険組合で失業した夫を扶養に入れてもらえず交渉を繰り返したケースがありました。
扶養の手続きは実際のところ、会社の総務などが取次ぎをしますので、その人の考え方も入り混じったりするのかな・・・なんて感じています。おかしな話ですけれどね。
本来男女で差があっていいはずはないのですが、もし夫を扶養に入れたいと思う場合は「書面で」「扶養に入れる(被扶養者の)」条件を確認しておく方が良いでしょう。
さらに複雑なパターン
夫婦どちらも健康保険でも、夫は「組合健保」で妻は「協会けんぽ」だったりすると、細かいルールが違ってきます。
どちらかが公務員で「共済組合」の場合は、子どもを扶養に入れると福利厚生の施設が子どもの分も割引になったり、補助を受けられるという、健康保険以外のメリットがあることもあります。
共働き夫婦で、大きな収入差がない場合は色々な制度を調べたうえで有利なほうをチョイスできるといいですね。
【令和3年以降にルール改正】お互いの組合が扶養を押し付け合ってどちらも拒否!?
上記の②のケース、夫婦とも健康保険組合の場合は「原則収入の多い方」の扶養に入れるのが決まりでした。明確にどちらが常に収入が多ければ問題ありません。
ですが、夫婦で収入があまり変わりが無かったり、もともと収入の多かった妻が一時的に育児休業などで収入が減った際に扶養を認めず「子どもがどちらにも入れない=保険証がいつまでも手に入らない」という問題がありました。
保険証が無ければ、子どもが急に病院にかかったときにも全額お金を払い、後で払い戻してもらう手続きが必要になります。大人に比べて病院にかかる頻度も多かったり、共働きで働いているのに払い戻しの手続きをするのは楽ではありません。
そのため、認定の基準を明確にするように厚生労働省から通達が出されました。令和3年8月から適用されます。
新しいルールの概要は以下の通りです。
夫婦とも社会保険の場合
- 扶養の人数に関わらず、収入の多い方の扶養とする
(過去の収入・今の収入などから、今後1年間の見込み収入で判断する) - 夫婦の収入差が1割以内の場合は主に生計を維持している方の扶養とする
- どちらが共済組合(公務員)で、扶養手当を受け取っているときはそちらの扶養にする
(扶養手当がないからと言って扶養を認めないのはダメ) - 扶養を認めない場合はその理由を文章で出す
- 相手の組合が不認定の通知を出したときはそれをもとにもう一方が審査し、認定できないときはそれぞれの組合で協議する。
決まらないときは、届け出た月の標準報酬月額(給与ランク)が高い方の扶養にする - どの書類で収入を証明するかは組合が決める
扶養していた人が育児休業で収入が減った場合
今まで扶養していた方が育児休業に入った場合は特例的に扶養を移動しない。
ただし、新しく生まれた子供に関しては改めて認定(どちらの扶養に入れるか判断)の手続きを行う。
収入が入れ替わって扶養する親が変わるとき
収入が逆転した理由で扶養を削除するときは、相手の健康保険が扶養に認定したことを確認してから外す。
(参照)夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について(PDF)
「我が家の場合」のベストな方法を知りましょう
実は何も考えずに、すべてを「夫」の扶養につけたままにしているケースも多いです。
家族の形が画一的で、父が外で働き母は家で子育てをする、という形が崩れてきている今、それぞれのご家庭の形に応じて有利な制度を利用する方がいいはずです。自分の家がどういう状況なのかはぜひ再確認してくださいね。
とはいえ、まだまだ男性の方が女性より賃金が高いケースが多いです。
様々な相談事例なども、それを前提としてかかれていることも多いですね。
いい悪いにかかわらず、そこから外れて「妻の方が収入が多い」「夫が自営業」「夫が専業主夫」などのケースは、なかなか同じ状況が探しにくいものです。
そういう「ほかのおうちとちょっと違う」ケースに関しては、ぜひ専門家にご相談を。
ぜひ共働き専門の独立系FPにご相談ください(^^)